エメラルドグリーンT
著者:HOCT2001


 悩むことは人として大きい小さいを合わせるとかなりの量になるのかな、と思う。その中で私は”この悩み”は大きなものなのかしら、と思う。
もちろん修験者のような高尚な考えなんかには行き着けないけど、私は悩む。あの大会の日、泉君のかっこいい姿が目に焼き付けられてはなれない。
プロの演技を思わせるような、チューブの中でのすごい演技。はっきり言って私はサーフィンがどのようなスポーツかは知らなかった。
でも、波に愛されているような彼の演技を見ていると複雑な気分になる。サーフィンがすごいとかそんなことよりあふれ出てくるこの気持ち。
この気持ちを人は何だというのだろう。恋?近いけど違うものかもしれない。友情?もっと違う。

 だから私はこの気持ちをもっと知りたくて泉君に今まで以上にかかわることになった。

 
 朝の登校時、偶然にも楓と通学路で一緒になった。まぁ、こんな自体は珍しいものじゃない。家の方向が一緒だし、どちらかが寝坊でもしない限りたいてい朝は一緒になる。
「ふぁぁうぁ、ねむねむぅ」
「もう、楓!!学校近いのに何でそんなに眠そうにしているのよ!!」
「だって、昨日の深夜番組面白かったんだもーん」
「つまりは夜更かしして、私まで眠たくなるような顔をしながら登校していると。今からがそんなのじゃ大学部入ったら自主休講多くなりそうね」
「あーーん、今のうちからそんな先のことにいやみ言わないでよぅ」
 だってどう見たってちゃらんぽらんでしょ。私がそばにいないとどうなるかわからなくなるもの。今のうちにしつけておかないと。
これも友情……だよね?
「それで昨日はどんなテレビ見ていたの?」
「普通に恋愛バラエティーよ。当事者じゃなかったら他人のコイバナは面白いからね」
「それが自分に帰ってこないことを祈っているわよ」
 さて、親友とのおしゃべりはもう少し続けていたいけど、これ以上楓に付き合って学校に遅刻なんてしたら目にも当てられない。
「んじゃ、学校まで走っていきますか」
「眠いのぉ」
「その意見は却下だよ」
そういうと、私は駆け出し始めた。
「あーーん、鏡子ぉ、まってぇ。私も走るから」

 そうしてダッシュの成果もあったのか予鈴3分前に教室に着いた。まぁ、予鈴がなっていてもHRまでに駆け込めば遅刻じゃないんだけどね。
私のまじめな性分もあるのか、予鈴前には教室についていないと落ち着かない。たとえ睡眠時間が足りていない楓に無理をさせてでもちゃんとついておきたかった。
で、その楓はというと、
「ふぅぅぅぅ、あはぁぁぁぁ、もう、無理……HR寝ちゃう」
 まぁ、HRなんて出欠さえ取れば後は寝ていようが何をしていようが文句を言われる場所じゃないのだけどね。
それにしてもあの楓のばて具合を見ると朝食もとっていないのだろう。それでよくここまで走れてきたものだ。意外と体育会系なのだろうか。
親友の新たな一面を見れてうれしく思う。

 さて、泉君もHRだからいるはずなんだけど。サーフィンの練習で遅刻していなければ。それで、首を大きく見回すと、HR中にもかかわらず、泉君が飯田君と紙将棋をしていた。
あれ、意外な姿だね。泉君はバリバリ体育会系で将棋とか得意じゃないイメージあるのに。飯田君も将棋できたんだ。飯田君は、ほら……勉強とかできないイメージが。
失礼だけど。単に授業中の時間つぶしだったりするのかな?二人とも学科のほうはよろしくないみたいだし。

 そんなことを邪推していると、担任がプリントを配りだし、HRは終了した。

 さて、お勤めも終わったし、一時間目まで時間もかなりある。自分から話しかけるのは恥ずかしいけど、泉君に対して今まで以上に興味がもてたのだから、朝のおしゃべり位するのがいいかなと思っていると。

「小森さん、先日は大会になんて連れ出しちゃったりしてごめんね」
 と、泉君のほうから話しかけてきた。

「え、え?私が興味があるからいっただけで感謝されるほどのことじゃないよ」
「でも、湘南て遠いだろ。わざわざ電車で1時間ほどもかかるところに来てもらって、本当に感謝しているよ」
「電車での移動は新鮮で面白かったし、知っている人が全国レベルの大会で2位になんてなれるところが見られただけでも幸せだよ」
「うん、そういってもらえると助かるな」
「それで、2位だったんだよね。今度楓や飯田君や桜井君も連れてお祝い、なんかしないかな」
「え、別に1位だったわけでもないし、そういうのは、正直照れる」
「いいじゃない、1位になった選手は世界レベルの選手だったんでしょう。だったらこの2位っていう結果は1位になったことと同じくらい意味があると思うんだ」
「うん、そういわれると好意はありがたくいただこうかな」
「それじゃぁ、店の当たりをつけることとかは楓とやっておくから楽しみにしていて」
「では、お言葉に甘えて」

 泉君はそういうと、飯田君のほうに戻っていって将棋を再開していた。私にお礼を言うだけのためにきてくれたのかと思うと頬が紅潮してしまうのは仕方の無いことだと思う。

 さて、それでは楓とミーティングしないとね。雰囲気のいい店でお酒は飲めないけれどささやかなパーティーができるといいな。

「楓ぇ、ちょっとこっちきてぇ」
「鏡子……さっきからずっとあなたのそばにいるんだけど」

 え、泉君と話していて周りが見えていなかった、私?頬を高潮させている場合じゃないよ。

「ごめん。周りが見えていなかったみたい。じゃぁ、もう話さなくても何やるかわかるわよね」
「わかった、わかったって。いい店探してきてあげるから恩に思いなさいよ」
「楓のそういうところ好きよ」
「はいはい、褒めても何も出てきませんよ」
「じゃぁ、早速……」

 こうして、サーフィン大会の打ち上げの話が進んでいく…



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